バフェットが「買い」と言った東京海上HD——株価はまだ割安か?

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2026年3月23日、保険業界に衝撃的なニュースが走った。

ウォーレン・バフェット率いるバークシャー・ハサウェイが、傘下のナショナル・インデムニティー(NICO)を通じて東京海上ホールディングス株を2,874億円(約18億ドル)で取得すると発表した。取得比率は2.49%。

しかしこれは単なる株式取得ではない。提携の中身は3本柱から成る。

  1. 再保険クオータシェア:東京海上の保険ポートフォリオの一部リスクをNICOが引き受ける。バークシャー伝統の「保険フロート拡大」戦略の直接適用だ。
  2. M&A共同実施:東京海上の実行力にバークシャーの資本力を組み合わせ、グローバルな優良案件を共同取得する。
  3. 10年間の排他的パートナーシップ:最初の5年間は双方とも競合他社と同種の提携を禁じる。

バークシャーの保険部門を統括するアジット・ジェイン副会長はこう述べた。「優れたアンダーライティング事業と優秀な経営陣を持つ東京海上と長期的な協業関係を構築できることを喜んでいる」

バフェット流の「褒め言葉」は、いつも本質を突く。

なぜバークシャーは保険会社に投資し続けるのか——フロート戦略の解剖

この問いに答えるには、バークシャーの根幹ビジネスを理解する必要がある。

ナショナル・インデムニティー(NICO) は1967年にバフェットがわずか860万ドルで買収した損害保険会社だ。現在はA.M. Bestによる最高格付け「A++XV」を保持し、バークシャー保険帝国の中核を担う。

バークシャーの保険事業の特徴は「保険フロートを無償の運用資金として活用する」モデルにある。

保険フロートとは、保険料として先に受け取った資金のうち、まだ保険金として支払っていない部分だ。通常の保険会社はこれを保守的に運用するが、バークシャーはこれを積極的な投資資金として使う。

そのフロートの規模がどこまで成長したか:

フロート規模
2004年末460億ドル
2019年末1,290億ドル
2024年末約1,710億ドル

約20年で3.7倍に膨らんだ「無償の資金」が、バフェットの投資活動を支えている。

さらに驚くべきはコストだ。バークシャーは2024年まで14年連続で保険引受利益(アンダーライティング・プロフィット)を計上している。フロートを使えるだけでなく、保険事業自体が利益を生んでいるのだ。2024年の保険引受利益は90億ドルと過去最高水準に達した。

今回の東京海上との再保険クオータシェア契約は、このモデルの日本への直接移植だ。NICOが東京海上のポートフォリオの一部を引き受けることで、世界38カ国の優良保険ビジネスから生まれるフロートをさらに積み上げられる。

東京海上HDとは何者か——150億ドルのM&A戦略

東京海上HDは国内損保トップの企業に留まらない。世界約38カ国で保険事業を展開するグローバル保険グループであり、北米やブラジルなど海外事業が利益を牽引している。

この地位は10年以上にわたる大胆な海外M&Aによって築かれた。

対象会社買収額意義
2007〜2008Kiln Ltd.(英国)約4.4億ポンドロイズ・ロンドン市場初参入
2008Philadelphia Consolidated Holding47億ドル米国中堅商業保険、専門リスクに強み
2012Delphi Financial Group27億ドル米国の団体生命・傷害保険
2015HCC Insurance Holdings75億ドル特殊・高度リスク保険の世界的大手

累計の海外買収総額は150億ドル超。日本の損保会社としては異例の規模だ。

その結果、海外事業は今や東京海上の収益の約60%以上を占める。

直近の業績がそれを証明する:

指標数値
FY2024 当期純利益1兆552億円(前年比+52%)
FY2025 国際事業利益(Q3累計)3,767億円(前年比+19%)
北米事業(FY2024)3,629億円(国際利益の約85%)
修正済みROE目標20.7%
5年平均配当成長率+22.1%/年

純利益1兆円超え。ROE20%超。5年で配当が2.7倍になる成長ペース。これは「お堅い保険会社」の財務ではない。

割安なのか、割高なのか——グローバル比較で判断する

東京海上HDのバリュエーションを単体で見るのではなく、グローバルの競合と比較してみよう。

会社市場PERPBRROE配当利回り
東京海上HD東証12〜13倍2.2倍約12〜20%※3.6%
Progressive(米)NYSE11.1倍4.1〜5.3倍34.2%低い
Chubb(米)NYSE13〜14倍1.6倍14.5〜16.3%1.2%
Allianz(独)FWB13〜14倍18.1%4.76%
AXA(仏)Euronext9〜11倍13〜18%5.64%
Munich Re(独)FWB11〜13倍16.7%4.1%

※修正ROE(政策株売却益除く)は12.6%、政策株売却益含むと19.8%

この表から何が見えるか。

東京海上のPER12〜13倍はグローバル比較で「安い」とは言えない水準だ。しかし配当利回り3.6%は欧州勢に匹敵し、米国勢(1〜2%台)を大きく上回る。

より重要なのはROEだ。修正ベース12.6%は一見控えめだが、政策保有株(持合い株)の売却益を含む実態ROEは約20%。東証改革が進み政策株の売却が加速するほど、この「隠れた資本効率の高さ」が浮上してくる構造になっている。

そしてPBR2.2倍。市場平均(約1.3倍)を大きく上回るが、ROE20%超の企業にこの水準は理論的に正当化できる。むしろ米国のProgressiveがROE34%でPBR4〜5倍という事実を踏まえると、東京海上はまだ「ディスカウント」状態にある。

正直に見るリスク要因

投資判断において、リスクを直視することは不可欠だ。東京海上には4つの実質的なリスクがある。

① 巨大災害リスク

東京海上の歴史の中で最大の試練となったのが2011年のタイ洪水だ。東日本大震災と同年に発生したこの洪水により、東京海上は1,300億円(約13億ドル)の保険損失を計上した。年間利益を約80%押し下げるほどの打撃だった。

ただし、その後の海外分散が奏功し、2022年に同規模の大規模自然災害が発生した際の業績への影響は20〜30%程度に抑制された。分散効果は確実に機能している。

② 円高リスク

利益の60%超が海外(主に米ドル建て)から生まれるため、円高は直接的な減益要因となる。1円の円高で修正純利益が数十億〜100億円規模で減少すると推定される。2026年に円高が進行した場合、FY2026の業績予想が下方修正されるリスクがある。

③ 規制変更リスク

金融庁は2026年3月末から経済価値ベースのソルベンシー規制(ESR)を適用開始した。新規制下では、保有資産の市場価値変動や金利変動がソルベンシー比率に直接影響する。東京海上は業界トップクラスの資本充実度を誇るが、大規模な株式保有(政策株)の評価変動がリスク要因となりうる。

④ 国内競合の再編

2025年3月、三井住友海上とあいおいニッセイ同和の合併が正式決議された。合併後のMS&ADは保険料収入ベースで東京海上日動を上回り、国内市場の首位に浮上する見込みだ。東京海上の差別化軸はグローバル展開と収益性にあるが、国内市場での競争激化は避けられない。

結論:「割安」は本物か

筆者の見立てはこうだ。

絶対水準では割安とは言いにくい。 PBR2.2倍・PER12倍は、いわゆる「バーゲン銘柄」の外見ではない。

しかし、相対水準では依然として割安だ。

ROE20%超・配当利回り3.6%の組み合わせを、PER12〜13倍で買える市場は世界中を探しても稀だ。米国のChubbがROE15%でPER13倍なのに対し、東京海上はそれを大きく上回る収益性を同等か低い評価倍率で提供している。

バフェットが2,874億円を投じた事実は重い。彼は「高い」と思う株は買わない。世界最高の保険投資家が「買い」と判断したその価格帯で、私たちは今日も市場で東京海上株を買うことができる。

本記事は情報提供を目的としており、投資勧誘を意図するものではありません。投資判断はご自身の責任においてお願いします。

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